DX戦略とは?必要性やビジョンを明確化するためのポイントについて解説

DX戦略とは、デジタル技術を活用して企業の競争力の維持・強化を実現していくための行動計画やアプローチのことです。企業担当者のなかには、「DX戦略を立てる必要性は感じているが、どのように取り組めばよいのかわからない」という方もいるのではないでしょうか。

そこで本記事では、DX戦略の概要や重要性、ビジョンを明確化するためのステップ、事例などについて解説します。

DX戦略とは

DX戦略とは、デジタル技術を活用して、企業の競争力の維持・強化に向けて製品・サービスなどを創出するための行動計画とアプローチのことです。本章では、DXの概要や注目されている背景について解説します。

そもそもDXとは?

そもそもDXとは「Digital Transformation」(デジタルトランスフォーメーションの略)の略であり、日本語に直訳すると「デジタル変革」という意味になります。略称が「DT」ではなく「DX」となっているのは、英語圏では「Trans」を「X」と表現する習慣があるためです。

DXは、企業がデジタル技術やAI技術などを活用して、ビジネスモデルや組織、業務プロセスなどを変革することを指します。

DXが注目されている背景

DXが注目されている背景としては、以下のような要因が挙げられます。

  • 技術革新の進歩
  • グローバル競争の激化
  • 顧客ニーズの変化
  • 社会課題の解決
  • コロナ禍の影響

顧客ニーズの多様化やグローバル競争の激化が進む現代のビジネス環境においては、これまで以上に業務プロセスの効率化や新規ビジネスの創出などが求められています。また、近年ではAIの台頭をはじめとするデジタル技術が進歩してきていることから、デジタル技術を活用してビジネスモデルや組織、業務プロセスなどを変革するDXの取り組みに注目が集まっているのです。

加えて、DXの取り組みは企業にとってのメリットだけでなく、社会課題の解決にもつながります。たとえば、コロナ禍の影響によって人の密集を避けるためにテレワークの必要性が高まりましたが、テレワークの実現による社会課題の解決もDXの一例であるといえるでしょう。

企業におけるDX戦略の必要性

前述したように、顧客ニーズの多様化やグローバル競争などが進む現在のビジネス環境においては、企業におけるDX戦略の必要性は高まっています。

現状では、部署ごとの個別最適なシステムやレガシーシステムに課題を抱える企業も多く、経済産業省はこれらの既存システムがDX実現の障壁になる問題を「2025年の崖」として警鐘を鳴らしています。

また、システム面だけでなく、アナログでの業務プロセスや属人的な業務を解消して働き方改革を進めていくことも重要な課題です。DXが進んでいないことで、従業員の満足度が低下し、貴重な人材が転職する理由のひとつにもなりかねません。たとえ目の前の経営状態が良くても、将来を見据えたDX戦略によって変革を実行していく必要があるのです。

DX戦略のビジョンを明確化するための4ステップ

DX戦略を着実に実行していくためには、まずはDX戦略のビジョンを明確化することが必要です。

ここでは、DX戦略のビジョンを明確化するためのステップとして、以下の4つのステップに沿って解説していきます。

  1. 現状把握
  2. 理想状態の定義
  3. ビジョンの策定
  4. ビジョンの共有

1. 現状把握

まずは、自社の現状把握を行うことが重要です。現状把握においては、具体的には3C分析やSWOT分析などが有効な手段となります。

3C分析とは、「Company」(自社)・「Competitor」(競合)・Customer(顧客・市場)の3つの「C」からなる分析手法であり、自社の事業環境や競合他社との競争環境、顧客・市場のニーズなどを分析します。

また、SWOT分析は「Strength」(強み)・「Weakness」(弱み)・「Opportunity」(機会)・「Threat」(脅威)の4つの要素からなる分析手法です。内部環境として自社の強みや弱みを把握するとともに、外部環境として市場動向や経済指標、業界が直面する課題などを整理していきます。

2. 理想状態の定義

現状把握ができたら、DX戦略のゴールとなる理想状態を定義していきます。

DXによってどのような企業の状態を目指すのかを、「ヒト」・「モノ」・「プロセス」・「情報システム」といった経営リソースの観点などに分けて明確にしていきましょう。それにより、DX人材の育成や業務プロセスの効率化、情報システムの刷新などの施策につなげることが可能です。

また、理想状態の定義にあたっては、具体的な目標や指標を設定することも大切です。具体的な目標や指標を設定する際は、「SMART」の法則を活用して以下の要素に沿って具体化していくとよいでしょう。

  • Specific(具体的である)
  • Measurable(測定可能である)
  • Achievable(現実的に達成可能である)
  • Relevant(最終的な理想状態と関連性がある)
  • Time-bound(期限が明確である)

3. ビジョンの策定

自社の現状と理想状態を明確にできた後は、現状と理想のギャップを踏まえてDX戦略のビジョンを策定していきます。ビジョンを策定する際は、簡潔でわかりやすく、達成可能なものであるかを意識することがポイントです。

このビジョンの策定においても、先ほどの「SMART」の法則は有効に活用できるでしょう。ビジョンの構想・策定は、あいまいな理想論になってしまいがちなため、「具体的に何を」「いつまでに」「どのレベルまで」といった具体的な議論にまで落とし込んでいくことが重要です。

4. ビジョンの共有

ビジョンの策定ができたら、社内に対してビジョンの共有を行っていきます。ビジョンを共有する際は、経営層や一部の責任者層だけにとどめるのではなく、全社員に共有していくことが大切です。DX戦略は全社一丸となって行っていく取り組みであるため、一人ひとりの社員にしっかりとビジョンを伝えていきましょう。

また、ビジョンの共有にあたっては、具体的なアクションもセットで各現場に落とし込んでいくことが重要です。ビジョンを達成するために、「明日から何をするか」などのような具体的な行動まで促せるようにしていきましょう。

DX戦略を成功させるための取り組み

ここでは、DX戦略を成功させるための取り組みとして、以下について説明します。

  • デジタルビジネス戦略を立てる
  • 多様な手法を実行しながらピボットを繰り返す

デジタルビジネス戦略を立てる

デジタルビジネス戦略とは、デジタル技術を活用して、新たなビジネスモデルを構築し、競争優位性を獲得するための戦略です。従来のビジネス戦略は、既存のビジネスモデルを効率化することに重点を置いていましたが、デジタルビジネス戦略は、デジタル技術を活用して、全く新しいビジネスモデルを創造することに重点を置いています。

とはいえ新規事業を創出するには、投資側の視点を意識するなど多様な要素が複雑に絡み合うため難易度が高く、失敗してしまうケースも多いのが実状です。事業構想を策定するにあたって、経営側の制度設計やプロセス整備などを進めることも重要です。

多様な手法を実行しながらピボットを繰り返す

新規事業にあたっては、事業規模を拡大しながら、より多くの顧客に商品やサービスを提供し、収益を増加させることが求められます。

しかしビジネス社会において、新規事業の取り組みは3つのうち2つは失敗すると言われています。既存事業の運営と同じ考え方やアプローチから脱却できないことや、リスクヘッジをしすぎて新規事業開発へチャレンジしづらくなっているのが実情だからです。

そのため、顧客のニーズを検証しながら最小限の費用で製品やサービスを開発していくリーンスタートアップや、変化に柔軟に対応しながら迅速に価値を創造していくアジャイルなどの手法を実行することで、ピボットを繰り返すことが有効です。

DX戦略で用いられるフレームワーク

ここでは、DX戦略で用いられる代表的なフレームワークとして、以下の4つを紹介します。

  • DX推進モデル
  • デジタル成熟度モデル
  • ビジネスモデルキャンバス
  • 顧客視点のフレームワーク

目的や用途によって適切なフレームワークは異なるため、自社の状況や目的に合わせて選ぶことが重要です。

DX推進モデル

DX推進モデルとは、DXを効率的に推進していくために経済産業省が策定したフレームワークであり、以下の5つのステップで構成されています。

  1. 現状把握
  2. 課題の特定
  3. 戦略の策定
  4. 実行
  5. 効果の測定

このフレームワークに沿ってDX推進を行っていくことで、自社の現状把握や課題の特定、および現状把握と課題を踏まえたDX戦略の策定が可能です。

また、DX戦略の策定にとどまらず、戦略の実行と実行後の効果測定まで行っていくため、DXによるビジネスの変革を最後まで遂行できるでしょう。

デジタル成熟度モデル

デジタル成熟度モデルとは、自社のデジタル成熟度を以下の5つのレベルで評価するフレームワークです。

  • Unaware(未認知)
  • Emerging(新興)
  • Learning(学習)
  • Developing(開発)
  • Mastering(修得)

このフレームワークを用いることで、デジタル成熟度における自社の現状を把握し、次に取るべきステップを明確にすることができます。

たとえば、自社のデジタル成熟度がレベル1に相当する「Unaware(未認知)」であればデジタル技術を知るところから始めるなど、社員のデジタルリテラシーに応じた教育につなげることができるでしょう。

ビジネスモデルキャンバス

ビジネスモデルキャンバスは、自社のビジネスモデルを以下の9つの要素で可視化するフレームワークです。

  • 顧客セグメント
  • 価値提案
  • 収益の流れ
  • チャネル
  • 顧客との関係
  • 主要活動
  • リソース
  • パートナー
  • コスト構造

ビジネスモデルキャンバスを用いることで、DXによってどのようにビジネスモデルを変革していくのかを考えることができます。

たとえば、新規チャネルとしてEC事業を展開する、紙の書類をデジタル化して保管コストを削減するといった取り組みにつなげていくことが可能です。

顧客視点のフレームワーク

顧客視点のフレームワークは、顧客視点に立ってDX戦略を策定するフレームワークです。

たとえば、以下の4つの要素からなる4C分析などが挙げられます。

  • 顧客価値(Customer Value)
  • 顧客にとっての経費(Cost)
  • 顧客にとっての利便性(Convenience)
  • コミュニケーション(Communication)

顧客視点のフレームワークを活用することで、顧客の目線に立って商品・サービスの価値やコスト、購入のしやすさなどを考えていくことができます。それにより、顧客のニーズを理解し、顧客満足度向上につながるDX戦略を策定することができるでしょう。

まとめ

DX戦略とは、デジタル技術を活用して企業の競争力の維持・強化を実現していくための行動計画やアプローチのことです。顧客ニーズの変化やグローバル競争の激化、技術革新の進歩が顕著な現代のビジネス環境においては、DX戦略によって自社のビジネス変革を実現していくことが不可欠です。

DX戦略のビジョンを明確にしていくうえでは、まずは自社の現状把握を行い、ゴールとなる理想状態を定義していく必要があります。そして、現状と理想状態を踏まえながら具体的なビジョンを策定し、全社員に対してビジョンを共有していくことが大切です。DXの実現に向けて変革の必要性を社内全体に共有し、全社一丸となって推進していくようにしましょう。

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