IT戦略とは?経営戦略に役立つアプローチ方法やDX戦略との違い
IT戦略とは、情報技術 (IT) を活用して自社のビジネス目標を達成するための戦略や計画を指します。企業担当者のなかには「IT戦略についてよくわかっていないため、DX戦略との違いや効果的な進め方などを知りたい」という方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、IT戦略の概要やDX戦略との違い、役立つフレームワーク、IT戦略で失敗しないための対策について解説します。
IT戦略とは
IT戦略とは、情報技術 (IT) を活用してビジネスの目標を達成するための戦略や計画のことです。企業が抱える経営課題に対して、ITをどのように活かして解決していくのかを考えていきます。経営課題を解決する手段のひとつとしてITがあるため、IT戦略は経営戦略の一部であるといえます。
たとえば、経営課題のひとつとして非効率な業務プロセスがある場合、業務効率化のためにシステムの構築・導入を計画することなどがIT戦略の一例です。
IT戦略とDX戦略の違い
IT戦略と似た用語としてDX戦略があります。
IT戦略とDX戦略は混同されがちなため、ここでは両者の違いを下表にてまとめています。
IT戦略 | DX戦略 | |
---|---|---|
目的 | 既存ビジネスモデルの最適化・効率化や 今後の事業環境変化への対応 |
新規ビジネスモデルの創出 |
手段 | 情報システムの構築・運用 | デジタル技術やデータの活用 |
重要な要素・対象 | システム基盤・業務アプリケーション | ビジネスモデル全体 |
変革の視点 | コストおよびオペレーションの最適化 環境変化への適応力の向上 |
ビジネスそのものの変革 |
業務の変化 | 仕事の負担軽減と質の向上 | 仕事そのものの内容や質の変化 |
IT戦略の例としては、たとえば顧客情報管理の効率化を目的として顧客管理の“システム”を導入することなどが挙げられます。一方でDX戦略では、新規ビジネスモデルの創出を目指して、AIを活用したパーソナライズされた商品提案の“サービス”を構築するなどの点で違いがあります。
経営におけるIT戦略の課題
経営におけるIT戦略の課題として、大きく分けて以下の3つが挙がっています。
- 経営環境の変化
- 経営とITのギャップ拡大
- インフラ部門の現状
経営環境の変化
経営におけるIT戦略とは、情報技術(IT)をどのようにビジネスに活用するかを策定した中長期的な計画です。
経営環境は、具体的には、以下のような変化が起きることが想定されます。
- 事業ポートフォリオの拡大・変化が加速する
- 投資家からの業績プレッシャーが増える
- 顧客接点・商材・オペレーションのデジタル化が加速する
- 不可逆に進行する労働力の高齢化、不足への対応が求められる
- ワークスタイルの多様化への対応が必要になる
経営環境の変化に対応するためには、IT戦略を定期的に見直し、効果的に実行することが必要です。
経営とITのギャップ拡大
経営とITのギャップ拡大とは、経営者やビジネス部門とIT部門の間に、ITの価値や方向性に関する認識や理解の差が生じることです。
このギャップが拡大すると、以下のような課題が生じます。
- 事業拡大や新規事業開発の足かせになる
- 全社的ITコストが膨張する
- 先端テクノロジー利活用の足かせになる
- バックオフィスの生産性が改善されにくい
- ワークスタイルの近代化が遅れることで社員エンゲージメントが低迷する
経営とITのギャップが拡大すると、ITの効果的な活用を阻害するだけでなくDX戦略に影響を及ぼします。経営におけるIT戦略では、このギャップを縮小するために、経営者やビジネス部門とIT部門のコミュニケーションや協働を強化することが重要です。
IT・インフラ部門の現状
IT・インフラ部門の現状として、以下のような課題があります。
- 主要システムの老朽化と保守期限切れが起きる
- つぎはぎ型の開発が連続しIT資産/インフラが複雑化する
- IT部門の社内下請ポジションが定着化する
- 開発・運用工数の膨張により慢性的に人手が不足する
- IT部門の業務が属人化してしまう
長年にわたって蓄積されたシステムの老朽化(レガシーシステム)は、高いコストやリスクを伴うだけでなく、新しい技術やビジネスニーズに対応する柔軟性やスピードを欠いてしまい、その結果、IT・インフラ部門はレガシーシステムの維持・管理に多くの人的・物的リソースを割かれることになります。
一方で、DX戦略実現に向けたシステム開発や運用においても、テクノロジーやビジネスモデルに精通したIT人材が必要です。そのような人材は市場においても不足し、採用や育成が困難な状況にあり、事業やビジネスのイノベーションや付加価値の創出に有用なIT人材を十分に投入できない状況に陥りがちです。
またその結果として、IT・インフラ部門のスタッフはレガシーシステムの維持・管理にリソースを割かれることで、DXに関わるやりがいや成長機会を得られずに、モチベーションや満足度が低下して離職してしまう可能性も考えられるのです。
IT戦略の課題を解決するための対策例
ここでは、IT戦略の課題解決のための対策例を2つのポイントから紹介します。
全社基幹システム刷新構想
全社基幹システム刷新構想とは、企業の経営や事業に必要な基幹業務を管理するシステムを、新しい技術やビジネスニーズに対応できるように見直し、再構築する計画のことです。
基幹システムを刷新することには、以下のような目的やメリットがあります。
- 業務効率の向上
- ブラックボックス化の解消
- 運用・保守コストの削減
- データ活用の推進
このように、全社基幹システム刷新構想は、企業の事業運営や事業拡大を推進するための重要な取り組みです。ただし、基幹システムの刷新は、莫大なコストや時間や手間がかかります。そのため、自社の現状と目標を明確にし、自社にあった刷新方法を選択し、計画的に進めることが必要です。
全社BPRの実施
全社BPR(Business Process Reengineering)とは、全社的な規模で業務プロセスを根本的に見直し、抜本的に再構築することです。
従来の業務フローや組織構造にとらわれず、顧客志向やコスト、業務品質等の視点から業務全体を最適化することを目的としています。
基本的には、以下のステップで進めます。
- 現状分析
- 目標設定
- プロセス設計
- プロセス実装
- プロセス評価
全社BPRの実施は、大きな変革を伴うため、多くの時間やコスト、人的リソースが必要です。また、従業員の抵抗や反発も想定されます。そのため、経営層の強いリーダーシップやコミットメント、従業員の理解と協力、外部の専門家やコンサルタントの支援などが重要です。
IT戦略のアプローチ
IT戦略を推進するためのアプローチとして、例えば以下のようなものがあります。
- デジタイゼーション
- モダナイゼーション
デジタイゼーション
デジタイゼーションとは、アナログ情報をデジタル情報に変換することです。具体的には、紙の書類をスキャンしてPDF化したり、音声や映像をデジタルデータに変換したりすることが挙げられます。
人海戦術ありきの非効率・属人的な業務や、サイロ化およびブラックボックス化された局部最適化なシステムを改善すべく、組織やガバナンスの在り方から再整理し、バックオフィス系業務改革(合理化)と全体最適を目指すデジタイゼーションへの転換を支援します。
主に、以下のステップで進めます。
1.プレ業務調査
プレ業務調査は、複数部門に影響があり業務負荷が高いプロセスを題材に、顧客理解・本質課題のクイックな見極めと全体ボリュームの把握を実施
2. 全社業務調査
対象部署・業務範囲を全社業務/主要業務に拡大し、全体最適に向けた課題調査を開始
3. 課題解決の方向性および施策検討
課題への対応方針検討を行うとともに重要性/緊急性を定義し、経営・現場双方の合意形成を図った上で、各課題に対する具体的な施策を検討
4. ロードマップ策定
全社的/個別的課題それぞれの解決に向けたロードマップを、整合性を担保しながら描きつつ、実行のためのマスタープランを策定
5. 実行
ロードマップを基に、早期に対応すべき課題・ボトルネックに対してはQuick-Win施策(小さな成功を積み重ねる方法)で効果を刈り取りながら、全体最適化に向かって実行
モダナイゼーション
モダナイゼーションとは、古くなったIT資産(ハードウェアやソフトウェア)を、最新の製品や設計に置き換えることです。基幹システムとしてレガシーシステムを長期的に使っていると老朽化などの問題が出てくるため、周辺システムを含めてクラウド化などを進める必要があります。
とはいえ、数多くある製品やベンダーの中から自社にとって最適な製品×ベンダーの組み合わせを選ぶことは容易ではありません。そのため、製品・ベンダーセレクションの課題をサポートしてくれるサービスの利用も検討すると良いでしょう。
主に、以下のステップで進めます。
1.将来システム構想検討
新基幹システム刷新に向け、コア業務における業務とシステム課題を識別
導出された課題に対して解決の方向性を仮説ベースで立案
課題解決の方向性をベースに将来業務像/システム像を策定したグランドデザインを実施
2.製品・開発ベンダー選定/FIT&GAP
グランドデザインで定義した将来業務/システムを基に、新基幹システムに必要な機能を抽出(業務要件/機能要件の抽出)
業務要件/機能要件に適合する国内外製品の調査・分析(FIT&GAP分析)
基幹システム導入に定評があるSIerの選定および情報収集
製品・SIerからのRFIを基に情報収集し、製品×SIerの最適な組み合わせを選定
3.社内決裁~発注
製品ベンダーへの見積もり依頼を行い、見積もりに係る社内外コストを識別したうえで、要件定義フェーズの確定費用および設計~開発フェーズの概算費用を策定
社内決裁・承認に必要な資料作成・関係各所との諸調整を実施
社内決裁後、SIerと製品ベンダーに発注
IT戦略で失敗しないための対策
IT戦略で失敗しないためには、以下に挙げる対策を十分に行っていくことが重要です。
- 経営層のコミットメントを得る
- 明確なビジョンと目標を設定する
- 現状を分析する
- 関係者とのコミュニケーションを図る
- リスクを管理する
- 定期的にレビューを行う
- 外部からの支援を受ける
経営層のコミットメントを得る
IT戦略で失敗しないためには、経営層のコミットメントを得ることが必要です。IT戦略は、経営戦略に基づいて考えていくものであり、経営層の強いコミットメントがあってこそ成功します。
IT戦略を円滑に立案・実行していくうえでは、経営層がIT戦略の重要性を理解し、積極的に推進していく必要があります。経営層のコミットメントを得るためには、IT戦略がどのような経営上のメリットをもたらすのかをしっかりと説明していくことが重要です。
明確なビジョンと目標を設定する
IT戦略を成功させるためには、明確なビジョンと目標を設定することも大切です。IT戦略によって何を達成したいのか、具体的なビジョンと目標を設定していきましょう。
ビジョンと目標を設定するうえでは、「SMART」の法則に従い、以下の観点を押さえていくことがポイントです。
- Specific(具体的である)
- Measurable(測定可能である)
- Achievable(現実的に達成可能である)
- Relevant(最終的な理想状態と関連性がある)
- Time-bound(期限が明確である)
現状を分析する
ビジョンと目標の設定に加えて、現状を分析することも重要です。適切なIT戦略を立案・実行するためには、自社の現状を正しく分析し、強み・弱み、機会・脅威を把握する必要があります。
現状分析においては、SWOT分析などが有効なフレームワークとなるでしょう。自社の内部要因や外部の環境要因を多面的に分析することで、正しい現状分析に基づく適切なIT戦略の策定が可能になります。
関係者とのコミュニケーションを図る
IT戦略を策定・実行するうえでは、関係者とのコミュニケーションを図っていくことも大切です。IT戦略は、経営層やIT部門だけでなく、業務部門やスタッフ部門など関係者全員の協力が必要となります。
そのため、関係者と密にコミュニケーションを取りながら、IT戦略を進めていくための理解と協力を得ることが重要です。円滑にコミュニケーションを図るうえでは、IT戦略のビジョンや目的、それぞれの部門にとってのメリットを明確に伝えていくことが大事なポイントとなるでしょう。
リスクを管理する
IT戦略で失敗しないためには、リスク管理も重要です。IT戦略には、さまざまなリスクが伴います。たとえば、想定以上にシステムの構築・運用コストがかかったり、システム上のトラブルによって業務影響が生じたりするなど、IT戦略では注意すべき点がいくつも存在します。
IT戦略をスムーズに推進していくためには、考えられるリスクを事前に想定し、リスクの回避・軽減・受容・転換などの観点で適切な対応策を準備しておくことが大切です。
定期的にレビューを行う
IT戦略を進める際は、定期的にレビューを行っていくこともポイントです。IT戦略は、必ずしも事前に立てた計画通りに進むとは限らず、定期的にレビューを行って必要に応じて計画を修正していく必要があります。
たとえば、IT戦略においては、システムの導入スケジュールの遅延やコストの超過などがよく発生します。そのため、想定通りに進まない事態をあらかじめ想定し、毎週・毎月などの単位で推進状況の確認を行っていくことが重要です。
外部からの支援を受ける
IT戦略で失敗しないためには、外部からの支援を受けることも有効です。自社のリソースだけでは人員やノウハウなどに限りがある場合も多いため、外部の力を借りながらIT戦略を進めたほうがスムーズに推進することができます。
外部のコンサルタントやシステムインテグレーターなどの専門家からアドバイスや支援を受けることで、自社だけでは気づかなかった観点をカバーしたり、システムの構築・導入を効率的に進めたりできるようになるでしょう。
まとめ
IT戦略とは、情報技術 (IT) を活用してビジネスの目標を達成するための戦略や計画のことです。
IT戦略で失敗しないためには、経営層をはじめ社内全体の理解・協力を得られるように関係者と密にコミュニケーションを図ることが重要です。また、現状分析やビジョン・目標設定を具体的に行ったうえで、リスク管理や定期的なレビューなどを実施して状況の変化に対応していくことが求められます。
加えて、自社の人員やノウハウだけでは十分なIT戦略を策定できないケースも多いため、コンサルタントやシステムインテグレーターなどの専門家から支援を受けることも有効な手段となるでしょう。